普段目にするカレンダーやスケジュール帳には、日付や曜日以外の内容が記されているものが多いものです。たとえば「国民の祝日」あるいは「大安」、「立春」など、ご存じではないでしょうか。
これらは「暦注(れきちゅう)」と呼ばれています。
古来からの流れを汲む「暦(暦本)」には、迷信的な吉凶を示すものも含め、他にも多くの内容が「暦注」として掲載されています。
暦は、お寺で新年に配布されたり常用している家庭以外は、あまり一般的ではないかもしれませんが、現在も季節の目安やお日柄など日々の指標として、考慮されている面もあります。
暦本を開いてみると、暦注が盛りだくさんの内容で、まずは知ってよかったと感じました。ご覧になってみて下さい。
暦注とは?掲載内容は?
画像:高野山家宝暦より
暦注は日ごとの注釈
「暦注(れきちゅう)」とは、カレンダーや暦(暦本れきほん)に記された日付や曜日、その日の運勢や吉凶に関する説明および留意事項のことを指します。
国民の祝日や年中行事、二十四節気をはじめ季節に関すること、月の満ち欠けなども含まれます。また年中の作業として、作物の種まきなどの時期が含まれているものもあります。
広辞苑(第七版)には、以下のように記されています。
暦本に記入される事項。天象・七曜・干支・朔望・潮汐・二十四節気などのほか、中段と呼ばれる十二直、下段に記される吉凶の選日、二十八宿・九星・六輝・雑節など。
暦注は、掲載位置から、上段・中段・下段に分類されています。(※編纂によっては、多少内容が変わる場合もあります。)
上段:月・日付・曜日、二十四節気、七十二候、天象・天文学関連(日出・日没・月齢・満干潮・干支など)、年中行事、雑節など |
中段:十二直 |
下段:二十八宿、九星、六曜(六輝)、選日など吉凶関連 |
中国発祥で日本に伝来され、陰陽五行説や十干十二支を起源とした、日ごとの運勢や縁起の良い方角・時間や行いなどの生活指針が記された中段と下段の暦注部分は、いわば占い注釈ですが、根拠のない迷信的な扱いとなり、明治政府から使用を禁止された時代もありました。
その後も根強い人気があり、第二次大戦後、再び掲載されるようになりました。
今でいえば、占いコーナーやラッキーアイテムをテレビやスマホで見るようなものでしょうか。それでも、通常のカレンダーには、六曜以外の記載は稀であるといえます。
何か新しいことを始めたり予定を立てる際、よいお日柄を決める時などに参考材料のひとつとして、ご覧になる機会がある場合に、何が記されているのか知っておくというのも、視点が変わって興味深いものではないでしょうか。
大化の改新後の奈良時代、律令制の「陰陽寮(おんみょうりょう)」により作成された「具注暦(ぐちゅうれき)」に、季節や年中行事とともに毎日の吉凶などの詳細が漢字で記入されており、これらは「暦注(れきちゅう)」と呼ばれていました。
その後、「具注暦」を簡略化し、かな文字で書いた「仮名暦(かなごよみ)」とともに、江戸時代まで用いられていたとされています。
上段・中段・下段の内容は、この時の掲載位置に由来するといわれています。
撰日法のルール
撰日法(せんじつほう)は、中国伝承による暦注に日にちを割当てる方法のことで、月切り・節切り・その他とされています。
・月切りは、暦月によって日にちを割当てるもので、旧暦の月の朔日(1日)から干支や日数で決めます。(暦注で代表的なものは、大安などの六曜です。)
・節切りは、節月によって日にちを割当てるもので、二十四節気の節気で1か月を区切った日から干支や日数で決めるため、月初めは1日(ついたち)とは限らないものです。
(多くの暦注は節切りで、例えば、節切りによる正月は立春から啓蟄の前日までを表します。)
また、俳句の季語分類も、節切りです。
・その他は、暦注の割当て日が常に一定のもので、天恩日は常に一定の干支の日になります。
それでは、上段から順番に掲載内容とそれぞれの意味を説明していきます。
暦注上段
暦注上段(れきちゅうじょうだん)は、月・日付・曜日、 二十四節気、 七十二候、 天象・天文学関連(日出・日没・月齢・満干潮・干支など)、 年中行事、 雑節などが記されています(編纂によって内容は変わります)。
月・日付・曜日
さまざまな暦の月日を、暦月(れきげつ)・暦日(れきじつ)と呼びます。旧暦の日付や、月は「和風月名」も記されています。
数字以外の毎月の名前「和風月名」とは?読み方や由来をご紹介 よろしければご覧ください。
二十四節気
二十四節気は、太陽の動きをもとに季節の変化を示した指標で、立春を起点に1年を春夏秋冬4つの季節に分け、さらにそれぞれを6つに分けて24の季節の節目を表したものです。
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七十二候
七十二候は、二十四節気の各節気(約15日)をさらにそれぞれ約5日間ずつ3つ(初候・次候・末候)に分けて、72分割し自然界の気象や動植物の変化で節目を表したものです。
天象・天文学関連
・日出・日没の時刻、満・干潮の時刻は、主要都市ごとに記されています。
・月齢は、月の満ち欠けを、朔(新月)・上弦・望(満月)・下弦で記しています。もしくは、新月を月齢0から満月を月齢15として記す場合もあります。
・干支(十干十二支)は、十干と十二支を組み合わせた60の数で一巡し、年・月・日・時刻・方角などを表すために二文字の漢字で記されています。
十干: 甲(こう)・乙(おつ)・丙(へい)・丁(てい)・戊(ぼ)・己(き)・庚(こう)・辛(しん)・壬(じん)・癸(き)の10
十二支: 子(ね)・牛・丑(うし)・寅(とら)・卯(う)・ 辰(たつ)・ 巳(み)・午(うま)、未(ひつじ)、 申(さる)酉(とり)、 戌(いぬ)、 亥(い)の12
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年中行事
決められた時期や季節に行われる行事や各地の風習、作物の種まきや植付け時期、お盆期間、国民の休日、五節句などが記されています。
五節句:節句は「節供」とも表し、季節の変わり目で縁起が良いとされる奇数の日に、お供えをして邪気を払い、無病息災、豊作、子孫繁栄などを願う行事です。人日(1月7日)、上巳(3月3日)、端午(5月5日)、七夕(7月7日)、重陽(9月9日)を指します。
節句とは?五節句の由来や意味についてご紹介 よろしければご覧ください。
雑節
雑節(ざっせつ)は、二十四節気だけでは表せない、日本ならではの季節の目印や農作業の目安となる日、祭りや祈願などの重要な日を補い、日本人の季節感や生活文化に合わせて作られた、独自のものです。
節分(せつぶん)・彼岸(ひがん)・社日(しゃにち)・八十八夜(はちじゅうはちや)・入梅(にゅうばい)・半夏生(はんげしょう)・土用(どよう)・二百十日(にひゃくとおか)・二百二十日(にひゃくはつか)を指します。
雑節とは?9つすべてを日程とともにご紹介 よろしければご覧ください。
暦注中段:十二直
暦注中段(れきちゅうちゅうだん)は、十二直(じゅうにちょく)が記されています。
十二直(じゅうにちょく)は、北極星を中心とした北斗七星の動きが指す方角を十二支に当てはめて、日々の吉凶判断に用いられたものです。
建(たつ)・除(のぞく)・満(みつ)・平(たいら)・定(さだん)・執(とる)・破(やぶる)・危(あやぶ/あやう)・成(なる)・収(おさん)・開(ひらく)・閉(とず)の12つからなり、満・平は大吉、建は中吉、閉は凶、破・危は大凶、その他は小吉とされています。
「直」は「当たる」の意味を持ち、奈良時代に日本に伝来した後、長く吉凶占いとして暦に取り入れられ、庶民の間で浸透し、日々の生活指針として用いられていたといわれています。
現在においても、建築業界では地鎮祭など建築に関わる行事の日程で、十二直を考慮するところは少なくないそうです。
「十二直」とは?由来や暦注にある12の意味と吉凶事 よろしければご覧ください。
暦注下段
暦注下段(れきちゅうげだん)は、二十八宿、 九星、 六曜(六輝)、 選日など吉凶関連が記されています。聞きなれないものが多いのではないでしょうか。
二十八宿
二十八宿(にじゅうはっしゅく)は、古代中国の天文学を起源とし、星の位置を観測して月や太陽などの位置を推測し暦を作るために、月が地球の周りを一周する間に観測する28星座(宿)を示したものでした。
四方位を守護する獣神(東方青龍、西方白虎、南方朱雀、北方玄武)の方位に分かれ、さらにそれぞれ七宿(7つの星座)に分かれています。
やがて、その日の吉凶を表す内容がメインとなりました。吉凶のいずれに対しても具体的な行いが記されています。
二十七宿(にじゅうななしゅく)は、二十八宿がインドに伝えられた後、牛宿(ぎゅうしゅく)が除かれた以外は同じ宿星(星座)名が用られ、主に占いに使用されています。中国から一時日本に伝えられ、用いられた時期もあったそうです。
「二十八宿」「二十七宿」は何を表す?暦にある方は?歴史と内容 よろしければご覧ください。
九星
九星(きゅうせい)は、古代中国を起源とする、一白(いっぱく)、二黒(じこく)、三碧(さんぺき)、四緑(しろく)、五黄(ごおう)、六白(ろっぱく)、七赤(しちせき)、八白(はっぱく)、九紫(きゅうし)の9つの星を表します。
これら九星と五行(木・火・土・金・水)の星とを合わせ、十干十二支の生まれ年に当てはめて、吉凶や運勢、相性、方位などを占います。
・一白水星(いっぱくすいせい)
・二黒土星(じこくどせい)
・三碧木星(さんぺきもくせい)
・四緑木星(しろくもくせい)
・五黄土星(ごおうどせい)
・六白金星(ろっぱくきんせい)
・七赤金星(しちせききんせい)
・八白土星(はっぱくどせい)
・九紫火星(きゅうしかせい)
九星気学(きゅうせいきがく)とも言われ、方位にも表され、庶民の間に浸透していたそうです。これらの名を見聞きしたことがある方も、いらっしゃるのではないでしょうか。
六曜
六曜(ろくよう)は、「先勝」「友引」「先負」「仏滅」「大安」「赤口」の6つの要素で構成された吉凶で、お日柄の良し悪しの参考にされています。
1日ごとに概ねこの順番に従って周期的に繰り返され、その日の吉凶や運勢を判断するものとして、カレンダーに記載される場合も多いものです。
中国の干支や陰陽道といった古代思想に基づき、日々の吉兆を判断する考え方のひとつで、鎌倉時代末期に日本に伝わってきたといわれています。
明治時代には、七曜(曜日)との区別のため、「六輝(ろっき)」とも呼ばれていました。
「六曜」とは何のこと?由来や意味と今日的な捉え方とは よろしければご覧ください。
七箇の善日
七箇の善日(ななこのぜんにち)は、7つの吉日の総称です。
・天赦日(てんしゃにち/てんしゃび)
・神吉日(かみよしび/かみよしにち)
・大明日(だいみょうにち)
・鬼宿日(きしゅくび/きしゅくにち)
・天恩日(てんおんにち)
・母倉日(ぼそうにち)
・月徳日(つきとくにち/がっとくにち)
三箇の悪日
三箇の悪日(さんがのあくにち)は、3つの凶日の総称です。
・大禍日(たいかにち)・狼籍日(ろうじゃくにち)・滅門日(めつもんにち)
受死日
受死日(じゅしにち、じゅしび)は、黒い丸印「●」で表記されることから黒日(くろび)とも呼ばれます。仏事以外は何をやっても悪い日といわれています。
十死日
十死日(じゅうしにち、じゅうしび)は、十死、十死一生日、天殺日とも呼ばれ、受死日に次ぐ凶日で、10割が危険という意味とされています。
選日
選日(せんじつ)は、六曜、十二直、二十八宿、九星、暦注下段、七曜以外のもので、これら暦注に含まれなかった吉凶を示すものの総称を指し、撰日、雑注(ざっちゅう)とも呼ばれます。その日の干支(十干十二支)によって決まるものとされています。
吉凶日として、以下の9つがあります。
・天一天上(てんいちてんじょう)
・一粒万倍日(いちりゅうまんばいび)
・臘日(ろうじつ)
・三伏 (さんぷく)
・犯土(つち・ぼんど)
・三隣亡(さんりんぼう)
・八専(はっせん)
・十方暮(じっぽうぐれ)
・不成就日(ふじょうじゅび)
一粒万倍日などの「選日」とは?暦注にある9つの意味や割当て方 詳しくはこちらをご覧ください。
まとめ
暦とは、天体の位置から季節や時間の流れを計測し、農業を始めとする産業や経済などを予測して、計画的に豊かな未来の結果が得られるよう、時の為政者や軍師・占星術師などが時代とニーズに合わせて改良を重ね、積極的に活用してきた体系といえるものです。
カレンダーは、暦のうちのひとつで、天体の運行から年・月・日・曜日を計算し、記した日読み(かよみ)です。
古来からの暦(暦本)は、さらに季節、日出・日没、月の満ち欠け、日食・月食、主要な年中行事などとともに、「暦注」が記されたものです。
暦注は、日付や曜日のみならず、季節の節目、年中行事、方位や干支、さらにはその日の運勢や吉凶に関する説明および留意事項を記した注釈です。内容各種は、掲載順に以下の通りです。
上段:月・日付・曜日、二十四節気、七十二候、天象・天文学関連(日出・日没・月齢・満干潮・干支など)、年中行事、雑節など |
中段:十二直 |
下段:二十八宿、九星、六曜(六輝)、選日など吉凶関連 |
今日では、下段の吉凶や運勢に関する内容は、迷信的なものとしてあまり重視されなくなりましたが、かつては日々の行動や決断の際に重要視な指針とされてきました。
それでも、六曜や二十四節気、月齢などの情報は、一部のカレンダーやスケジュール帳で記載されているものもあります。
季節の節目を感じるとともに、新たな機会のスタートや自分の気持ちを後押ししてほしい時、占いやラッキーアイテムなどを取り入れるような、縁起やゲン担ぎの参考に、これらの暦注を眺めてみるのも、視点が変わってよいものかもしれません。