四季がわかりにくくなってきた現代、暦のひとつである二十四節気七十二候の自然観察を参考にして、季節を味わってみませんか?
冬の訪れから一歩一歩すすみ厳冬に至る景色が、繊細に記されています。いにしえから繋がる人々の感性に触れ、何を感じるでしょうか。
日々の暮らしの中に、窓辺からあるいは外に出て、幼い頃の素朴な風景や記憶、あるいは新たな感情と親しむひと時を。
日本の冬はいつ?主な3つの定義
日本の冬の期間には明確な定義というものはなく、概ね以下の3つが代表的なものとされています。
- 気象庁: 12月~2月
- 天文学: 冬至(12月22日頃)~春分の前日(3月19日頃)
- 二十四節気: 立冬(11月8日頃)~大寒の終わり、立春の前日(2月2日頃)
なお、放送における冬も、原則として気象庁の区分に合わせているそうです。
二十四節気の冬「立冬~大寒」の七十二候
・二十四節気は、太陽の動きをもとに季節の変化を示した指標で、1年を春夏秋冬4つの季節に分け、さらにそれぞれを6つに分けて季節の節目を表したものです。
二十四節気は期間を表す場合もあり、その際は次の節気の前日まで約15日間の期間を表します。
・七十二候は、二十四節気の各節気(約15日)をさらにそれぞれ約5日間ずつ3つ(初候・次候・末候)に分けて、72分割したものです(24×3)。
自然界における気象や動植物の変化をとらえて名付けられた詩的な表現に特徴があり、気候の移り変わりをより詳しく示しているといえるでしょう。
なお、二十四節気の日付は太陽の動きに基づくため固定されたものではなく、国立天文台が毎年2月に発表する翌年の暦要項(れきようこう)に、国民の祝日などとともに掲載されます。
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二十四節気の「冬」第19節気「立冬」~第24節気「大寒」(立春の前日)における、七十二候の第五十五候~第七十二候の景色について、以下に説明していきます。
この暦の上では、2月の立春が一年の始まりとなります。
二十四節気は、1)~24)の番号で示します。※2024年および25年の日程は赤字で示します。
七十二候は、各節気内に初候・次候・末候の順で、第一~七十二の番号で示します。
※各節気およに各候の年間一覧に関しましては、二十四節気七十二候とは?意味と日程とともにご紹介をご参照ください。
19)立冬(りっとう)毎年11月8日〜21日頃
※2024年は11月7日~、25年は11月7日~
立冬は「冬が立つ」として暦の上の冬が始まる時期で、八節(はっせつ)※の1つとして重要な季節の節目を表します。徐々に冬型の気圧配置となり、風の冷たさを感じたり、木枯らし1号※が吹くこともあります。
※八節:二十四節気の中の八つの季節の変わり目(立春・春分・立夏・夏至・立秋・秋分・立冬・冬至)。
※木枯らし1号:10月半ばの晩秋(ばんしゅう)から11月末の初冬(しょとう)の間に、初めて吹く毎秒8メートル以上の北よりの風のことで、東京および近畿地方で気象庁から発表されます。
第五十五候 山茶始開(つばきはじめてひらく)
初候:11月7日頃~11日頃
意味:山茶花(サザンカ)の花が咲き始める時期
読みは「つばき」ですが、山茶花はツバキ科で秋から冬にかけて咲き始めます。
椿(ツバキ)の花が咲くのは、春の字が入っている通り12月~3月です。
第五十六候 地始凍(ちはじめてこおる)
次候:11月12日頃~16日頃
意味:冷たい空気で、大地が凍り始める時期
日没後の冷え込みが厳しくなり、朝には霜が降りて霜柱が見られるようになります。また寒暖差で紅葉が進みます。
11月15日には、七五三があります。
第五十七候 金盞香(きんせんかさく)
末候:11月17日頃~21日頃
意味:水仙の花が咲き良い香りを放つ時期
花のキンセンカではなく、金盞 は金の盃を指します。水仙の黄色い副花冠(ふくかかん)を盃に見立てています。「咲く」ではなく「香(かぐわ)し」を用いて開花を表しています。
⑳小雪(しょうせつ)毎年11月22日〜12月6日頃
※2024年は11月22日~、25年は11月22日~
小雪は落葉の頃であり、わずかながら雪が降り始める時期で、初雪・初冠雪※の便りも届きます。
また西高東低の冬型の気圧配置が強まることで、太平洋側では乾燥した晴天が続く一方で、日本海側を中心に「時雨(しぐれ)」と呼ばれる、この時期に断続的に降る通り雨も多くなります。
※初雪・初冠雪:初めて降る雪、初めて山頂に雪が積もっているのを観測することです。
第五十八候 虹蔵不見(にじかくれてみえず)
初候:11月22日頃~26日頃
意味:日差しが弱まり曇り空が多く、虹が出てもはっきりとは見えない時期
季語「冬の虹」は、はかないことのたとえでもあります。
11月23日は勤労感謝の日、由来となった新嘗祭があります。
第五十九候 朔風払葉(きたかぜこのはをはらう)
次候:11月27日頃~12月1日頃
意味:冷たい北風が吹き始め木々の葉を落とす時期
朔は方角では北を意味し、北風は冬に吹く北西方向からの季節風を指します。このシベリアから日本海を渡り日本に吹き付け、山脈を越えて吹き下りる冷たい乾燥した風は「空っ風(からっかぜ)」と呼ばれています。
第六十候 橘始黄(たちばなはじめてきばむ)
末候:12月2日頃~6日頃
意味:橘(タチバナ)の実が黄色くなり始める時期
橘は、古代日本では柑橘類の総称とされ、山地に自生していたものといわれています。タチバナの果実は酸味が強く、異名の時香菓(ときじくのかぐのこのみ)は、不老不死の霊薬として古事記や日本書紀に記載があり、永遠を表す縁起のよい常緑樹とされています。
㉑大雪(たいせつ)毎年12月7日〜21日頃
※2024年は12月7日~、25年は12月7日~
大雪は平地でも雪が降り始め、寒さが本格化する時期で、クマやヘビなどの冬眠も始まります。
また気象庁の予報用語ではありませんが、この時期から日本に「冬将軍」※が到来し始めます。大雪から節分あたりの頃にシベリアからやってくる厳しい寒気団のことを指し、注意喚起に用いているそうです。
※冬将軍:皇帝ナポレオン率いるフランス軍がロシア遠征を行った際、ロシアの冬の厳しい寒さで多くの兵士たちが命を落とし撤退に追い込まれたことを、イギリスの新聞が「ナポレオンは極寒将軍に負けた」と報じ、日本ではこれを「冬将軍」と翻訳されたことに由来するとのことです。
第六十一候 閉塞成冬(そらさむくふゆとなる)
初候:12月7日頃~12月11日頃
意味:空が重い雲に塞(ふさ)がれて寒くなり、真冬が訪れる時期
「閉塞」を「そらさむく」と読んで、どんよりとした冬の空を表すとともに、重く垂れ込めた雲に天と地の気が塞がれて行き来できなくなり、生き物も動きをひそめるような本格的な冬の到来を感じさせます。
第六十二候 熊蟄穴(くまあなにこもる)
次候:12月12日頃~12月16日頃
意味:熊が穴に入って冬眠をする時期
熊は冬眠する前に大量のドングリなどの木の実やその他の食べ物を食べて栄養をつけ、春まで巣穴にこもります。同様に、この時期他の多くの動物も冬眠に入ります。
第六十三候 鱖魚群(さけのうおむらがる)
末候:12月17日頃~12月21日頃
意味:鮭が群れを成して川を遡ってくる時期
鱖魚(けつぎょ)は中国では高級魚とされるズキ科の淡水魚ですが、日本には生息しないため、川を群れて遡上(そじょう)する鮭をあて、読みもサケとされています。サケは川で生まれ海で成長し産卵のため生まれた川に戻ります。生まれた川の匂いを覚えているのだと言われています。
㉒冬至(とうじ)毎年12月22日〜1月5日頃
※2024年は12月21日~、25年は12月22日~
冬至は、北半球では太陽の南中高度が最も低く、一年で最も日照時間が短く夜が長い日とされ、八節(はっせつ)※上述ありの1つとして重要な季節の節目。
古代中国では、この日を境に最も弱くなった太陽の光が、再び強くなり始めるため、「冬至節」として「陰極まれば、陽に転ず」「一陽来復」良いことの前兆であると、お祝いしたそうです。
また、「冬至、冬中、冬始め」との言葉通り本格的な冬の寒さが始まる時期です。
この日に無病息災を願ってかぼちゃを食べ、ゆず湯に入る習慣などがあります。
第六十四候 乃東生(なつかれくさしょうず)
初候:12月22日頃~26日頃
意味:他の草木が枯れる中、夏枯草が芽を出す時期
乃東(なつかれくさ)は漢方薬に使われる「夏枯草(かこそう)」のことで、多年草で紫色の花を咲かせる「靫草 (うつぼくさ)」を指します。冬至の頃に芽を出し、夏至の頃枯れて茶色くなった穂が矢入れの靭(うつぼ)に似ていることに由来します。
・第二十八候(夏至の初候)の「乃東枯(なつかれくさかるる)」6月21〜25日頃と対になっています。
第六十五候 麋角解(さわしかのつのおつる)
次候:12月27日頃~31日頃
意味:大鹿の角が落ちる時期
麋(さわしか)は大鹿のことを指し、1年に1回その大きな角が生え変わる時期です。また、ニホンジカが角を落とすのは春になってからです。
第六十六候 雪下出麦(ゆきわたりてむぎのびる)
末候:1月1日頃~1月4日頃
意味:降り積もった雪の下で、麦が芽を出し始める時期
麦は秋に種を蒔き、冬に芽を出し、翌年の初夏に収穫するため、「年越草(とこしえぐさ)」とも呼ばれます。
この時期に行う「麦踏み」は、霜柱で浮き上がる土を抑えて丈夫な根を張らせ、芽に圧をかけて麦が株分けしやすくする作業で、収穫量を増やすための日本独特の風習です。
・第二十四候(小満の末侯)の「麦秋至(むぎのときいたる)」 5/31~6/4頃と対になっています。
㉓小寒(しょうかん)毎年1月6日〜19日頃
※2024年は1月6日~、25年は1月5日~
小寒は一年で最も寒い時期の始まり、寒の入りとも呼ばれます。そして大寒の最後の日である「節分」までの30日間は「寒の内」とされ、「寒中見舞い」を出す時期にあたります。
第六十七候 芹乃栄(せりすなわちさかう)
初候(しょこう):1月5日頃~1月9日頃
意味:芹(セリ)が生え育ち始める時期
芹は春の七草の一つで、冷たい湿地や川辺などに群生し、一ヶ所に競り(せり)合うかのように生えることから名づけられました。
1月7日には「人日(じんじつ)の節句」があり、セリの入った七草粥を食べます。
第六十八候 水泉動(しみずあたたかをふくむ)
次候(じこう):1月10日頃~1月14日頃
意味:地中で凍っていた泉が動き始める時期
水泉は湧きいでる泉のことで、地上は厳しい寒さではあっても地中では暖かくなり始め、凍った泉が融けて動き始めて、着実に春に向かうことを表しています。
第六十九候 雉始雊(きじはじめてなく)
末候(まっこう):1月15日頃~1月19日頃
意味:オスの雉(キジ)が「ケーン」と鳴き始める時期。
オスの雉のみがメスの雉への求愛行為のために鳴くとされています。
・1月15日には「小正月(こしょうがつ)」があります。「歳神様」をお迎えするお正月が終わり、主に女性が一息つく日として「女正月」ともいわれます。また農業にまつわる行事を行う日でもあります。
㉔大寒(だいかん)毎年1月20日〜2月3日頃
※2024年は1月20日~、25年は1月20日~
大寒は暦の上で冬の最後の時期となり、この日から節分までは一年で最も寒さの厳しい頃ですが、節分の翌日は立春です。
この時期に汲んだ水は「寒の水」といわれ、寒さと乾燥で雑菌が少なく腐りにくいため、昔から酒、醤油、味噌などは「寒仕込み」がよいとされています。
第七十候 欵冬華(ふきのはなさく)
初候:1月20日頃~1月24日頃
意味:地面にフキノトウ(蕾)が出て黄色い蕗(フキ)の花が咲き始める時期
冬に咲く黄色い花、冬黄 (ふゆき) がつまって「フキ」と名づけられたそうで、欵冬(かんとう)は蕗の異名です。最も早く食べられる春の山菜です。
第七十一候 水沢腹堅(さわみずこおりつめる/さわみずあつくかたし)
次候:1月25日頃~1月29日頃
意味:沢に氷が厚く張りつめる時期
沢の水も凍りついて、分厚い氷が張っている厳冬ならではの風景です。湖に厚く氷が張れば、ワカサギの穴釣りが解禁となります。
第七十二候 雞始乳(にわとりはじめてとやにつく)
末候:1月30日頃~2月3日頃
意味:鶏が小屋にこもり卵を産みはじめる時期
「とや」は鳥屋で、鳥を飼っている小屋。 「乳(読み:とやにつく)」は、鶏が卵を抱いて巣に籠ることを意味しています。
鶏は本来冬には産卵せず、春が近づくと産むようになります。日照時間が長くなるほど産卵率も上がるそうです。そのため、寒中に産まれる卵は時間をかけて育った卵なので栄養価も高く、貴重なもの、縁起が良いものとされ「大寒卵」とも呼ばれています。
まとめ
二十四節気における冬の3か月間を、七十二候の5日間ごとの描写で見ていくと、少しずつ進む寒さの度合や細やかな気配として、より移ろいを感じられたのではないでしょうか。
地域差もありますが、何となく想像できる部分や感じられる部分があったり、あるいは見つけに行ってみたくなる新鮮な発見のようなものもあったかもしれません。
冬ならではの季節を感じ、日々をさらに豊かに過ごせますように。