文字からして、いかにも縁起のよさそうな「一粒万倍日」、何となく見聞きする機会もあるかもしれません。
けれども、この日が暦本に記された「暦注」にある「選日(せんじつ)」の1つであるところまでは、あまり一般的に知られてはいないのではないでしょうか。
選日は主に9つあり、他によい日もあります。それはどんな日かな?と楽しみにしながら、それぞれの名称と意味を知り、科学的根拠はありませんが、お日柄の参考などとして、ご覧になってみて下さい。
選日とは何?
選日(せんじつ)は、さまざまな「暦注」のなかで「六曜 ・七曜 ・十二直 ・二十八宿 ・九星 ・暦注下段」に含まれないものの総称で、雑注(ざっちゅう)とも呼ばれます。
十干十二支60の組み合わせで表された「日の干支」を基に、その日の吉凶を占うもので、暦注下段や年中行事欄に記されます。
選日として一般的に記されることの多い9つは、以下の通りです(他にも多くの種類があるそうです)。
- 一粒万倍日(いちりゅうまんばいび)
- 三隣亡(さんりんぼう)
- 天一天上(てんいちてんじょう)
- 不成就日(ふじょうじゅび)
- 十方暮(じっぽうぐれ)
- 八専(はっせん)
- 三伏(さんぷく)
- 犯土(つち・ぼんど)
- 臘日(ろうじつ)
カレンダーや暦の「暦注」とは?掲載内容の種類と意味 よろしければご覧ください。
9つの内容と意味や該当日の割当て方
9つすべてを順番に、各々の意味や該当日の割当て方について示していきます。
一粒万倍日(いちりゅうまんばいび)
一粒万倍日は、「一粒の籾(もみ)が、稲穂のように万倍に実る」という意味合いから名付けらた、何を始めるにも好ましい吉日とされています。
この日に始めたことは後に大きな成果を得る、幸福の種が大きく膨らむというイメージから、特に入籍や祝い事、起業やお金に関することを始めるのに、良い日とされています。
ただし、物やお金の借り入れは後のちに苦労のタネが増えるかもしれない、要注意日とされています。
一粒万倍日の割当て方
一粒万倍日は、「節月せつげつ」と、「日の干支(十干十二支60日周期)」の関係を基に割当てられます。「節月」は旧暦で、二十四節気の節気で表された節切りによる一か月を表します。
これにより、月に約5~6回、年間で約60日位訪れます。
節月 | 二十四節気 | 十二月建 | 一粒万倍日の日の干支 |
十一月節 | 大雪・冬至(小寒の前日まで) | 子月 | 子、亥 |
十二月節 | 小寒・大寒(立春の前日まで) | 丑月 | 子、卯 |
正月節 | 立春・雨水(啓蟄の前日まで) | 寅月 | 丑、午 |
二月節 | 啓蟄・春分(清明の前日まで) | 卯月 | 寅、酉 |
三月節 | 清明・穀雨(立夏の前日まで) | 辰月 | 子、卯 |
四月節 | 立夏・小満(芒種の前日まで) | 巳月 | 卯、辰 |
五月節 | 芒種・夏至(小暑の前日まで) | 午月 | 巳、午 |
六月節 | 小暑・大暑(立秋の前日まで) | 未月 | 午、酉 |
七月節 | 立秋・処暑(白露の前日まで) | 申月 | 子、未 |
八月節 | 白露・秋分(寒露の前日まで) | 酉月 | 卯、申 |
九月節 | 寒露・霜降(立冬の前日まで) | 戌月 | 午、酉 |
十月節 | 立冬・小雪(大雪の前日まで) | 亥月 | 酉、戌 |
※十二月建は、北斗七星の斗柄にあたる星が真北を指す子ねの方角を「建子月(けんしげつ)」として、二十四節気の冬至期間を含む旧暦十一月節からスタートさせる暦による月の決め方です。
※2024年9~12月,2025年の一粒万倍日の具体的な日付は、3吉日:大安・一粒万倍日・天赦日とは?’24年9月~と’25年分の日程もに掲載しております。
三隣亡(さんりんぼう)
三隣亡(さんりんぼう)は、建築関係のことを行うと「三軒隣まで滅ぼす」意味があり、現在でも地鎮祭や棟上げ、高所作業時のけがなど含め、この日は避けるとよいとされています。
もとの由来は不明で、江戸時代には「三輪宝」とあったものが書き改められたという説や、「七箇の悪日」の一つとして火の災いに関連し、この日の建築は三軒先まで焼き滅ぶという説などがあります。
三隣亡の割当て方
三隣亡は、旧暦の節月と、日の干支の関係を基に割当てられます。
節月 | 日の干支 |
正月・四月・七月・十月 | 亥 |
二月・五月・八月・十一月 | 寅 |
三月・六月・九月・十二月 | 午 |
天一天上(てんいちてんじょう)
天一天上(てんいちてんじょう)は、天一神(てんいちじん)が地上から離れ天上に帰るため、災いや祟りなどの悪さが及ばない吉日期間のことで、日の干支が「癸巳(みずのと み)~戊申(つちのえ さる)」の16日間を指します。
天一神とは、陰陽道による方位神「十二天将」のうちの凶神で、「中神(なかがみ)」「天一(てんいち)」「天乙(てんおつ)」などとも呼ばれます。
天一神のいる方角は避けるべきとされており、天上にいる間は方向を気にせず動ける期間として、旅行や引越し、外出などが吉となります。
また、天一神が天上に帰っている間、代わりに日遊神(にちゆうしん)という神様が地上に降り、家に留まるとされています。
日遊神は火の神とされ汚れや不浄を嫌うため、家の中をきれいに掃除しておくとよいそうです。
天一天上と天一神のいる方角の割当て方
天一神が日の干支60日間のうち以外、地上で過ごす44日間の凶とされる方角を、以下に示します。
天一神は、日の干支60日間のうち天上に帰る「癸巳(みずのと み)~戊申(つちのえ さる)」16日間の後、「己酉(つちのと とり)」の日に地上に降りて八方を規則的に巡ります。
地上で過ごす44日間の方角を、日の干支期間とともに示しますが、吉凶に科学的な根拠はないといわれています。
日の干支 | 天一神のいる凶の方角 | 期間 |
癸巳(みずのと み)~戊申(つちのえ さる)の間 | 天一天上 吉期間 | 16日間 |
己酉(つちのと とり)~甲寅(きのえとら)の間 | 艮うしとら(北東) | 6日間 |
乙卯(きのと う)~己未(つちのと ひつじ)の間 | 卯う(東) | 5日間 |
庚申(かのえ さる)~乙丑(きのと うし)の間 | 巽たつみ(東南) | 6日間 |
丙寅(ひのえ とら)~庚午(かのえ うま)の間 | 午うま(南) | 5日間 |
辛未(かのと ひつじ)~丙子(ひのえ ね)の間 | 坤ひつじさる(南西) | 6日間 |
丁丑(ひのと うし)~辛巳(かのと み)の間 | 酉とり(西) | 5日間 |
壬午(みずのえ うま)~丁亥(ひのとの い)の間 | 乾いぬい(北西) | 6日間 |
戊子(つちのえ ね)~壬辰(みずのえ たつ)の間 | 子ね(北) | 5日間 |
不成就日(ふじょうじゅび)
不成就日(ふじょうじゅび)は、文字の表す通り、何をしても成就しない日を意味し、事を起こすには良くない日とされています。
特に婚姻、開店、転居、命名、契約などを始め、万事に適さないそうです。
不成就日の割当て方
不成就日は、旧暦の「月切り(つきぎり)」※によって、8日ごとに日付けが決まっており、現在の暦に割り当てています。
旧暦月 | 不成就日 |
1月・7月 | 3、11、19、27日 |
2月・8月 | 2、10、18、26日 |
3月・9月 | 1、9、17、25日 |
4月・10月 | 4、12、20、28日 |
5月・11月 | 5、13、21、29日 |
6月・12月 | 6、14、22、30日 |
※月切り: 朔日(1日)から始まる、暦面上の一か月(暦月)で区切ることで、旧暦の新月から満月を経て次の新月に至る一ヵ月が、元となっています。
十方暮(じっぽうぐれ)
十方暮(じっぽうぐれ)とは、天地と八方位(東・西・南・北・北東・南東・北西・南西)を表す「十方」の気が塞がり、暮れて闇となり、万事が上手く行かない日とされています。
日の干支が「甲申(きのえさる)~癸巳(みずのとみ)」の10日間を指したもので、これらの日の「十干」と「十二支」に割当てられた五行が互いにエネルギーを削り合ってしまう相剋の関係となるため、うまくいかず途方に暮れるといわれ、かつての暦には、特に婚姻や相談事、旅行などを控えるよう、十方暮れ入りの日が記されていたそうです。
十干は「木」「火」「土」「金」「水」の元素からなり、さらにそれぞれ「兄(え)」と「弟(と)」に分かれ、五行の気の性質が表されます。
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五行相克の関係は、「水は火に勝ち、火は金に勝ち、金は木に勝ち、木は土に勝ち、土は水に勝つ」という考えに基づいています。
十方暮期間の割当て方
十方暮に該当する甲申(きのえさる)~癸巳(みずのとみ)の10日間について、日の干支の組み合わせと相克関係について示します。
剋は勝つという意味で、金剋木(きんこくもく)は「金が木に勝つ」ためエネルギーを削ぐ関係です。
生は生じるの意味で、火生土(かしょうど)は「火により燃えて土になる」ためプラスのエネルギー循環となる関係です。
比和(ひわ)は同じ性質をもつ五行が重なることで、その気が高まり盛んになる関係です。
ただし、十方暮の期間は同様の扱いとみなされるそうです。
日の干支 | 五行 | 関係 |
甲申 きのえ さる | 木 ・金 | 金剋木 |
乙酉 きのと とり | 木 ・金 | 金剋木 |
丙戌 ひのえ いぬ | 火 ・土 | 火生土 |
丁亥 ひのと い | 火・ 水 | 水剋火 |
戊子 つちのえ ね | 土・ 水 | 土剋水 |
己丑 つちのと うし | 土 ・土 | 比和 |
庚寅 かのえと ら | 金 ・木 | 金剋木 |
辛卯 かのと う | 金 ・木 | 金剋木 |
壬辰 みずのえ たつ | 水 ・土 | 土剋水 |
癸巳 みずのと み | 水 ・火 | 水剋火 |
八専(はっせん)
八専(はっせん)とは、日の干支が「壬子(みずのえね)~癸亥(みずのとい)」の12日間のうち、「十干」と「十二支」に割当てられた五行の気が同じ(専一)となる日が8日あることに由来しますが、これらの日は気が乱れて物事が偏り、何事もうまくいかない日とされています。
よいこともよくないことも、ますますと重なる期間として、婚姻や入籍、法事などは避けた方がよいとされています。また、水の性質が重なる期間であるため、降雨が多いと認識されることもあります。
この期間には干支の五行が重ならない4日間があり、「間日まび」として八専の影響は受けないこととされるそうです。
八専期間の割当て方
八専に該当する壬子(みずのえね)~癸亥(みずのとい)の12日間について、日の干支の組み合わせと五行の性質、間日について示します。
日の干支 | 五行 | 間日 |
壬子 みずのえ ね | 水・ 水 | |
癸丑 みずのと うし | 水・ 土 | 間日 |
甲寅 きのえ とら | 木・ 木 | |
乙卯 みのと う | 木 ・木 | |
丙辰 ひのえ たつ | 火・ 土 | 間日 |
丁巳 ひのと み | 火 ・火 | |
戊午 つちのえ うま | 土 ・火 | 間日 |
己未 つちのと ひつじ | 土・ 土 | |
庚申 かのえ さる | 金・ 金 | |
辛酉 かのと とり | 金 ・金 | |
壬戌 みずのえいぬ | 水・ 土 | 間日 |
癸亥 みずのと い | 水 ・水 |
三伏(さんぷく)
三伏(さんぷく)とは、初伏(しょふく)・中伏(ちゅうふく)・末伏(まっぷく)の総称です。
陰陽五行説で金性を持つ「庚(かのえ)」が、夏の時期の盛んな火性に伏する(負ける)という相克の関係から、「夏季の庚の日」は猛暑にあたるため、体調などに注意をする日として、旅行や、種まき、婚姻などは慎む方がよいとされています。
三伏の割当て方
三伏の日取りは、 暦により諸説ありますが、一般的とされているものを示します。
初伏 | 夏至以後の3回目の庚日 |
中伏 | 夏至以後の4回目の庚日 |
末伏 | 立秋以後の最初の庚日 |
※夏至や立秋が庚日にあたる時は、その日が1回目となります。
犯土(つち・ぼんど)
犯土(つち・ぼんど)は、地鎮祭などの建築儀礼、土木工事や穴掘り、井戸掘り、種まき、木や植物の植替え、伐採、など、土を動かす(犯おかす)ことは慎む期間とされています。
この期間は、陰陽道で土を司る土公神(どくじん)が土中にいるため、怒りに触れてしまうといわれており、日の干支の組み合わせにより「庚午(かのえうま)~甲申(きのえさる)」の15日間で、大犯土(おおづち)7日間、間日を1日はさみ、小犯土(こづち)7日間です。
※暦の雑節のひとつに土用があり、この期間も土公神が土中にいるため、土を動かすことは慎む期間とされています。
土用とは?年4回で夏以外にもある?時期や留意点と食べ物も よろしければこちらをご覧ください。
犯土の割当て方
日の干支の組み合わせによって決められ、中犯土(なかづち)は「犯土間日(つちまび)」として、犯土の影響を受けることのない日とされています。
大犯土(大土) | 庚午(かのえうま)~丙子(ひのえね) |
中犯土(間日) | 丁丑(ひのとうし) |
小犯土(小土) | 戊寅(つちのえとら)~甲申(きのえさる) |
臘日(ろうじつ)
臘日(ろうじつ)は、中国の臘祭(ろうさい)という猟によって得た獲物を、神や祖先に捧げる年末の祭礼が由来といわれ、結婚や神事を避ける日とされますが、その他は定かではないため、採用していない暦もあります。
また、臘日の決め方も諸説あり、主な4つを以下に示します。
- 丑月ちゅうげつ(12月)9日
- 小寒後の2度目の辰日
- 大寒に最も近い辰日
- 大寒後の最初の戌日
まとめ
選日(せんじつ)は、さまざまな「暦注」のなかで「六曜 ・七曜 ・十二直 ・二十八宿 ・九星 ・暦注下段」に含まれないものの総称で、十干十二支60の組み合わせによる「日の干支」を基に、その日の吉凶を占うものとして記されました。
様々な種類があるといわれていますが、主な9つをご紹介しました。
- 一粒万倍日(いちりゅうまんばいび)
- 三隣亡(さんりんぼう)
- 天一天上(てんいちてんじょう)
- 不成就日(ふじょうじゅび)
- 十方暮(じっぽうぐれ)
- 八専(はっせん)
- 三伏(さんぷく)
- 犯土(つち・ぼんど)
- 臘日(ろうじつ)
なじみのない項目が多かったかと思いますが、かつては、季節に即したひとつの生活指針とされてきた経緯があります。
科学的な根拠はないものの、現代も、建築業界では気にかける日や、普段より体調に配慮する日、「一粒万倍日」を事始めのゲン担ぎにするなど、気持ちの上で、用心したり後押ししてくれるお日柄として参考にするのも、ものは捉えようではないでしょうか。