慌ただしく年末が近づくにつれ、お正月の用意も気になって…そんな時期にあたる12月13日は、昔から「正月事始め」と呼ばれ、新しい年を迎えるための準備が始まる日とされています。
聞き慣れない言葉ですが、その背景には長く受け継がれてきた理由や願いがありました。
その意味や歴史、風習、現代の暮らしでの取り入れ方まで、ご紹介いたします。
正月事始めとは？
正月事始めの意味：お正月の準備を始める日
正月事始めとは、新年を迎えるための諸準備に取りかかる日を指します。
昔から日本では、新しい年には「年神様（としがみさま）」をお迎えするとされ、そのための環境を整える日として重視されてきました。
家を整え、道具や食の準備に取りかかることで、新しい一年を心新たに迎える気持ちを育てる役割があります。
12月13日に行われる由来や歴史
- 元は「事八日」の12月8日
かつては、年中行事の区切りとして12月8日を正月準備の始まりとする地域もありました。農作業を終えて冬に入る合図にも位置づけられ、この日から年越しに向けた動きが本格化していきました。 - その後は12月13日へ
室町時代以降、12月13日は「鬼宿日（きしゅくにち）」にあたり、何を始めるにも縁起が良いとされ、この日が正式に正月事始めとして広まりました。江戸時代には幕府でもこの日を事始めと定め、庶民の間にも習慣が根付いたといわれています。
正月事始めの風習
正月事始めの日には、家の整え、年神様を迎えるための準備、おせち料理に向けた段取りなど、さまざまな行事に取りかかります。
掃除や飾りの準備を少しずつ始めることで、年末の慌ただしさを分散するという意味合いもありました。
年神様をお迎えする正月事始めに込められた願い
年神様は、一年の豊かな実りや家族の健やかな暮らしを司る存在と考えられてきました。正月事始めには、年神様が迷わず訪れられるよう整えるという願いが込められています。家を整える行為は、心を整えることにもつながるとされ、大切にされてきた理由のひとつです。
具体的なお正月準備の風習と意味
かつては年男が取り仕切っていた
昔の日本では、年神様を迎える準備は「年男」と呼ばれる、その年の干支に当たる男性が中心となって進める地域もありました。年男が家の中心として神事を仕切ることで、家族が一体となって新年を迎える気持ちを整える役割がありました。
煤払いを行う
煤払い（すすはらい）は、家に積もった煤をはらい、清々しい気持ちで新年を迎えるための行事です。
特に神棚や仏壇、台所など、日ごろから使っている場所を整えることで、新しい年を迎える心の準備につながるとされてきました。
神社や寺院でも煤払いが行われ、年末の風物詩として今も受け継がれています。
松迎え・正月飾りの用意
正月飾りは、年神様をお迎えするための目印とされています。飾りごとに意味があり、家庭や地域によって形もさまざまです。
かつては、山に入るなどして松や竹・薪などを取りに行くところから準備するため、半月以上前から時間をかける必要があったのですね。
門松
門松は、年神様が降り立つ際の目印とされる大切な飾りです。
松の常緑は長寿や力強さを象徴し、竹のまっすぐに伸びる姿には成長への願いが込められています。
玄関に立てることで「新しい年を迎える準備が整いました」という合図になり、家に福を招くと考えられてきました。
しめ飾り
しめ飾りは、神様を迎える場所が清らかであることを示すための飾りです。
しめ縄には「ここから先は神聖な領域である」という意味が込められ、玄関や台所、神棚などに飾られます。
地域や家庭ごとに形が異なり、稲穂や紙垂（しで）が飾られる場合もあります。
鏡餅
鏡餅は丸い形に「円満」や「調和」への願いが込められ、年神様の依り代（よりしろ）としてお供えする特別な飾りです。
二段に重ねる形には「年を重ねる」という意味があり、上にのせる橙（だいだい）には「代々続く繁栄」への願いが託されています。
また、お正月のあいだ、鏡餅には年神様が宿ると考えられ、鏡開きでお餅を分けていただくことで、年神様から授かった力を身体の内に迎え入れ、新しい一年を元気に過ごす願いを込めた大切な習わしとされています。
現代ではパック入りの鏡餅や小さめサイズも増え、暮らしに合わせて用意しやすくなりましたね。
羽子板
羽子板はもともと「魔をはね除ける」と考えられた道具で、邪気払いの象徴として飾られてきました。
華やかな絵柄は、女の子の健やかな成長を願う意味もあり、初正月の贈り物として根付いた風習です。飾り羽子板として一年のはじまりを彩る存在になっています。
破魔矢
破魔矢（はまや）は「破魔」という言葉のとおり、よくないものを祓う矢として用いられてきました。
年の初めに縁起を担ぐため神社で授与されることが多く、家の中の目立つ場所に飾ることで新年を迎える気持ちを整える役割があります。
男の子の初正月に贈られる習慣もあり、願いを託す道具として親しまれています。
干支飾り・置物
干支飾りは、その年の干支に由来する力や象徴を取り入れ、新しい年を前向きに過ごそうとする思いを形にしたものです。
玄関やリビングに飾ることで季節感が生まれ、家族が一年の節目を意識するきっかけになることでしょう。
おせち料理の準備
おせち料理は、年神様へのお供えであると同時に、一年の豊かさや願いを象徴する料理として受け継がれてきました。
保存がききやすい料理が多いのは、かつて年始に煮炊きなどの台所仕事を休むための知恵ともいわれています。
現代であれば、どの料理を手作りし、どれを購入するかを決め、買い物リストを作るとスムーズになりますね。
代表的な主なおせち料理の種類と意味
- 黒豆：まめに働き、まめに暮らせますようにとの願い
- 数の子：子孫繁栄の象徴
- 昆布巻き：よろこぶに通じる語呂合わせ
- 栗きんとん：黄金色の見た目から、財運や実りある一年への願い
- 田作り：かつて田の肥料として用いられたことから、五穀豊穣を願う料理
- 紅白かまぼこ：日の出やおめでたさを表す紅白の色合い
祝箸の用意
祝箸は、両端が削られた形をしており、片方ずつ人と神様が使うとされる縁起の良い箸のことを指します。
お正月だけの特別な箸として、新年の食卓を彩ります。
お雑煮の食材準備
お雑煮は、日本で長く親しまれてきた新年の料理で、その歴史は平安時代にまでさかのぼるといわれています。
もともとお餅は祝いの日に食べる特別な食材とされ、里芋や野菜と合わせ、年の初めに汲む若水を使って煮込むことで、新しい一年の実りや家族の健やかな暮らしを願ったと言われています。
室町時代には宴の最初に供される料理として位置づけられ、縁起の良い一品として広まりました。なお、「雑煮」という名前は、さまざまな具材を煮合わせた「煮雑ぜ（にまぜ）」に由来するといわれています。
また、お雑煮は地域差が大きく、関東では角餅を焼いて入れ、関西では丸餅を煮て仕上げるのが主流です。白味噌仕立てにあん餅を入れる香川のあん餅雑煮、岩手県宮古市のくるみだれでいただく雑煮など、だしや味付け、具材には地域ならではの特徴が表れます。
地域や家庭の文化・伝統による違い
同じ地域であっても、家庭ごとに受け継いできた形式が異なることがあります。
飾りの位置や手順、料理の味つけなど、その土地の文化や願い・各家庭らしい新年の迎え方があり、長く受け継がれていく大切な文化といえるでしょう。
家族で行う現代の正月事始め
必ずしも伝統をすべて忠実に行う必要はありません。
一人暮らしで行える範囲や、家族の状況、正月出勤の職業など、生活リズムに合わせて取り入れていくことで、清々しく心地よい新年のお迎えにつながるよう、無理のない範囲で計画的に準備を進めていけばよいのではないでしょうか。
現代の正月事始めの変化
近年は暮らし方や働き方が多様化し、昔のように12月13日から一斉に正月準備を始めることがむずかしい家庭も増えてきました。
そのため、この日を実際の作業日というよりは、「何をいつ進めるかを整理する日」「年末の段取りを立てる日」として活用してもよいのではないでしょうか。
また、住宅事情や季節のイベントの変化により、正月飾りを整えるタイミングも柔軟になりました。
とくに都市部では、クリスマスが終わった25日以降に正月飾りを出す流れも増え、切り替えが早い日本の新たな風景といえるかもしれません。
暮らしに合わせて無理のない形で取り入れられる点が、現代の正月事始めの特徴といえるでしょう。
一方で、縁起を担いで正月飾りの設置を避ける日に関する風習も根強く残っています。
正月飾りの設置を避けたい日
12月29日は「二重苦」を連想させる語呂合わせから、31日は「一夜飾り」になるため、この両日は遠慮する風習も残っています。
伝統を受け継ぐ大掃除の意義
年末の大掃除は、煤払いの名残ともいわれます。家の隅々まで整えることで、気持ちを切り替え、新年を迎える心の準備になります。
年末の大掃除は、古くは神社や寺院で行われていた「煤払い」の風習が家庭に広まったものといわれています。普段は手が届きにくい場所を中心に整えることで、一年の区切りとして気持ちを整える意味がありました。
例えば、家具のすき間や家電の裏、天井近くの梁や照明器具、カーテンレール、戸棚の上など、日常の掃除では後回しになりやすい場所に手をかける作業が象徴的です。こうした積もりやすい汚れを取り除く行為そのものが、古いものを脱ぎ、新しい一年を迎える準備として大切にされてきました。
また、神棚や仏壇まわり、玄関まわりを整えることは、年神様を迎える空間を整えるという意味も含まれています。家の隅々を見直す時間を持つことで、暮らしを一度リセットし、気持ちを前向きに切り替えるきっかけにもなります。
年賀状の作成
年賀状は新年の挨拶として長く親しまれてきました。
SNSが普及した現在でも、手書きの年賀状を楽しみにしている人は多く、干支のイラストや近況を書き添えることで温かみある交流となります。
元日に年賀状を届けるには、受付開始の12月15日から12月25日までに投函するよう準備しましょう。
SNS時代の新年準備
近年は、SNSの年始投稿を決めておく、スマホの背景を新年仕様に変えるなど、デジタル面で新年準備をする人も増えています。
写真フォルダの整理や一年の振り返りをまとめるのも、この時期に取り組みやすい作業です。
新年から使うものの準備
・新年のカレンダー・手帳類の準備
カレンダーや手帳を新調することで、新しい一年に向けた気持ちが高まります。スケジュールを記入し始めると、自然と次の年の予定や目標についても考えやすくなります。
・新年用のタオルや衣類の準備
新年には新しいものを使うと気持ちが整うとされ、タオルや肌着・衣類を新調する家庭もあります。日常のなかに小さな区切りをつくる行為として親しまれています。
帰省・家族で集まるための準備
お正月は、離れて暮らす家族が集まるタイミングでもあり、そのための準備も大切な時間になりますよね。遠方の場合、チケット準備は12月より数か月早く手配する必要もあるでしょう。
- 帰省や旅行の交通手段を早めに手配する
- 親戚が集まる日程を調整する
- 手土産やお年玉の用意をしておく
- 子どもたちが退屈しないよう、遊び道具やゲームを用意する
年末年始用の買い出し
おせちの材料やお正月休みをゆっくり自宅で過ごすために日持ちする食品、正月飾りなどをそろえるための買い出しも欠かせません。
計画的に準備することで、年末の混雑を避けつつ買い求めることができます。
特にネット通販の場合は、配達の遅延なども考慮し余裕を持って早めの購入がよいでしょう。
まとめ
正月事始めは、新しい年に向けて気持ちを整え、家の営みを見つめ直す大切な区切りです。
古くからの風習には、一年の始まりを丁寧に迎えようとした先人たちの知恵や願いが息づいており、現代の暮らしの中でも心を整えるきっかけを与えてくれます。
忙しさに追われやすい時代だからこそ、こうした節目を意識することで、新しい一年への気持ちを穏やかに育てる時間にもなるのではないでしょうか。
ポイントのおさらい
- 12月13日は「正月事始め」とされ、新年準備を始める目安の日
- 煤払い（大掃除）や正月飾り、正月料理など、年神様を迎えるための準備が中心
- 門松・しめ飾り・鏡餅など、飾りごとに異なる意味が込められている
- おせち料理やお雑煮にも、一年の豊かさを願う象徴が含まれる
- 地域ごとに雑煮の味や餅の形、飾りの種類が異なり、家庭ごとの受け継いできた風習が新年の雰囲気を形づくる
- 現代では正月飾りはクリスマス後に設置する流れも多い（12月29日・31日は避ける風習は残っている）
- 年賀状以外にSNS・帰省の準備など、新たな「事始め」も
- 無理のない範囲で、自分たちの暮らしに合うかたちで取り入れられる点が現代の特徴
新年が、あなたにとって実り多くあたたかな時間でありますように。
