雷が鳴ると「おへそを隠す」「くわばらくわばらと唱える」・・・どちらも子どもの頃に聞いたり絵本で読んだことがある方も多いのではないでしょうか?
何とも不思議な言い伝えですが、雷さまへの畏れや暮らしの知恵が込められていました。
長く語り継がれてきたこれらの意味や伝承の由来をたどりながら、現代の雷対策も併せてみていきましょう。
この記事でわかること
・雷さまやおへその昔話にみる自然観
・くわばらくわばらの由来となった伝承・意味や使い方
・昔の雷よけに込められた暮らしと信仰
・雷が近づいたときに意識したい現代の雷対策
雷が鳴るとおへそを隠すのはなぜ?

雷が鳴った時に「おへそを隠しなさい」と言われるのは、昔話だけでなく、暮らしの中の知恵とも結びついているからです。ここでは、その理由をいくつかの視点から見ていきます。
雷はどのような現象?音と光のしくみを簡単に
雷は、積乱雲の中や雲と地上の間で起こる大きな放電現象です。
主に積乱雲の中で氷の粒などがぶつかり合うことで電気がたまり、その電気が一気に流れると、まぶしい光や大きな音が生じます。
私たちは日常的に、光も音もまとめて「雷」と呼んでいますが、厳密には、光は稲妻や電光、音は雷鳴、地上へ向かうものは落雷と区別されています。
昔の人は、この仕組みを今のように知っていたわけではありません。
空が急に暗くなり、まぶしい光が走り、大きな音が響く・・・そうした雷の様子は、人の力を超えたもののように感じられたのでしょう。
※詳しい仕組みなどに関しましては、雷の別名と稲妻との違いとは?語源・季語・暦に残る暮らしと季節の言葉をご参照ください。
雷さまにおへそを取られると言われた理由
「雷さまにおへそを取られるから、隠しなさい」と言われたり聞いたことがある方は多いのではないでしょうか。
この言い伝えには、雷をただの気象現象としてではなく、雷さま・雷神・雷獣のような存在として受け止めてきた昔の自然観が表れています。
雷は、大きな音とまぶしい光をともなって空からやってくるものです。科学的な仕組みが今ほど知られていなかった時代には、その力を神様や不思議な生きもののしわざとして語ることで、自然への畏れを伝えてきたのでしょう。
言い伝えには、各地に残る昔話や伝承も関係していると考えられます。
雷さまがおへそを取って食べる話や、取ったおへそを自分につける話、奈良に伝わる「雷のへそ」の話など、少し不思議なお話として語り継がれてきました。
子どものころ、雷さまとおへそが登場する絵本や昔話を読んだことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。雷という大きな自然の力を、身近な物語として伝えるための表現だったのかもしれません。
また、「おへそ」は体の中心にある目立つ部分です。子どもにとってもわかりやすいため、「雷が来るから気をつけなさい」という注意を、印象に残る言葉として伝えるのに合っていたのでしょう。
おへそを隠すのは冷えを防ぐため
雷が鳴るころは、急な雨風や空気の変化が起こることがあります。
とくに夏の夕立のあとなどには、気温も下がりそれまで暑かった空気が急に変わって、雨と風で肌寒く感じることもあります。そのようなとき、お腹を出したままでいると冷えやすくなるため、大人が子どもに「おへそを隠しなさい」と言い聞かせたと考えられます。
もちろん、昔の人が気象の仕組みを細かく説明していたわけではありません。
けれど、空が暗くなり、風が変わり、雷が鳴り出すと、雨が近い。そうした暮らしの中の観察から、雷の言い伝えは生まれてきたのでしょう。
「雷さまにおへそを取られるよ」と言えば、子どもは驚いて服を整えたり、家の中へ入ったりします。つまり、おへそを隠す話には、子どもに行動を促すための家庭の習わしという面もあったのです。
身を低くする動作につながるため
おへそを隠そうとすると、多くの人は両手でお腹を押さえ、少し前かがみになります。
前かがみになっただけでは雷を遠ざけられるわけではありませんが、「身を低くする」という姿勢に結びつく点は、現代の雷対策にもつながります。
雷は、周囲より高いものに落ちやすい性質があるため、屋外で近くに移動できる場所がないときは、体をなるべく低くすることが大切です。
昔の「おへそを隠す」という動作により、身をかがめる、空の変化に気づく、早めに屋内へ入るといった行動の入口として読み直すことはできます。
言い伝えをそのまま受け取るのではなく、今の知識に合わせて見直すことで、昔の言葉が少し違って見えてくるのではないでしょうか。
自然や神様への畏れを伝える言葉だった

おへそを隠す話は、単なる迷信として片づけるには少しもったいないと思いませんか?
雷を「神鳴り」として受け止め、雷さまや雷神の姿に重ねてきた昔の人々にとって、雷は自然の大きな力そのものでした。
大きな光を目にし音を聞いて、外へ出たがる子どももいるかもしれません。暑い日なら、服をはだけたまま遊んでいることもあるでしょう。そんなとき、「おへそを隠さないと取られるよ」という言葉は、子どもに立ち止まらせる力を持っていました。
そこには、自然を軽く見ないこと、空模様に目を向けること、家族の声に耳を傾ける礼儀やしつけが含まれていたのではないでしょうか。
おへそを隠す言い伝えは、長い年月、日常の中で語り継がれてきた生活の知恵でもあったのです。
くわばらくわばらの意味・由来と使い方

「くわばらくわばら」は、雷よけのおまじないとして知られる慣用句です。ここでは、意味や使い方、由来として語られてきた伝承をみていきます。
くわばらくわばらは雷よけのおまじない
「くわばらくわばら」は、雷よけのおまじないとして唱えられてきた言葉です。
漢字では「桑原桑原」と書かれることがあります。雷が鳴ったときに、「くわばらくわばら」と繰り返して唱える形がよく知られています。
もともとは、落雷を避けたいときの言葉として伝わったとされますが、由来には複数の説があります。そのため、ひとつの説だけを由来として決めつけるより、いくつかの伝承が重なって広まった言葉として考えるとよいでしょう。
「桑原」とは、文字どおり桑の木が植えられた原や、地名としての桑原を指すことがあります。
昔の人は、雷を避けたいとき、言葉に祈りを込めました。「ここには落ちないでください」「どうか災いが来ませんように」という思いを、短い言葉に託していたのでしょう。
災難を避けたいときの言葉としても使われる
「くわばらくわばら」は、雷に限らず、よくない出来事を避けたいときの言葉としても使われることがあります。
たとえば、次のような言い方です。
・そんなことになったら大変ですね、くわばらくわばら
・もう同じ目にはあいたくないですね、くわばらくわばら
・あの話を聞くと、くわばらくわばらと言いたくなりますね
現代では、日常会話の中で少し冗談めかして使われることもあります。
同じように、縁起を直したり、よくないことを避けたい気持ちを表したりする言葉には、「つるかめつるかめ」「なんまんだぶ」などがあります。
それぞれ由来や使われ方は異なりますが、共通しているのは、言葉によってよくない流れを遠ざけようとする感覚です。
くわばらくわばらも、雷という自然現象への畏れから始まり、やがて日常の中で「災難よけ」の言葉として使われるようになったと考えられます。
菅原道真と桑原の伝承

「くわばらくわばら」の由来としてよく語られるのが、菅原道真にまつわる伝承です。
菅原道真は、平安時代の学者・政治家で、のちに天神さまとして信仰されるようになりました。道真の死後、都では落雷などの出来事が起こり、道真の怨霊や雷神信仰と結びつけて語られるようになります。
その中で、道真の領地だったとされる「桑原」には雷が落ちなかったため、人々が雷を避けたいときに「ここは桑原です」と示すように「くわばらくわばら」と唱えた、という説があります。
この話はとても有名ですが、由来には諸説あり代表的な説のひとつとして紹介いたします。
菅原道真の伝承からは、くわばらくわばらは単なるおまじないではなく、雷神信仰や天神信仰ともつながる言葉として見えてきます。
井戸に落ちた雷の民話と桑原の地名から
「くわばらくわばら」には、井戸に落ちた雷の民話も伝わっています。
大阪府和泉市の桑原町にある西福寺には、「雷井戸(かみなりいど)」と呼ばれる井戸にまつわる伝説があります。日照りの中で雨乞いをしていたところ、雷が井戸に落ち、そこにいた人が井戸をふさいだという話です。雷は、もう桑原には落ちないと約束して戻ったと伝えられています。
また、兵庫県三田市の欣勝寺(きんしょうじ)桑原にも、雷の子どもが井戸に落ちたという民話があります。雷の子は和尚さんに助けを求め、桑原にはもう落ちないと約束したため、それ以来「くわばらくわばら」と唱えるようになったと語られています。
どちらの話にも共通しているのは、雷が井戸に落ち、桑原という地に落ちないことを約束する点です。
このような民話は、地域の地名や寺院の伝承と結びつきながら、雷よけの言葉として語り継がれてきました。
また言葉を唱えるだけでなく、井戸に近づかない、井戸を神聖な場所として扱うといった意識にもつながっていたと考えられます。雷を恐れながらも、身近な場所に物語を重ねて受け止めてきたことがうかがえるお話ですね。
「くわばらくわばら」という短い言葉の裏には、平安時代の歴史だけでなく、各地に残る身近な昔話も重なっているのです。
桑の木を雷が嫌うという説
「桑原桑原」という表記から、桑の木にまつわる説もあります。
昔から、桑の木を雷が嫌う、あるいは桑の木が雷よけになると考えられた地域があったようです。
桑は、養蚕と深く関わる木です。蚕を育てるために桑の葉が必要だったことから、桑畑は人々の暮らしにとって大切な場所でした。そうした身近な木と雷よけが結びついたのは、農村の暮らしの中では自然なことだったのかもしれません。
また、桑の木にかかっていた鎌や刃物と雷を結びつける民話もあります。雷を切る、追い払う、寄せつけないといった発想は、雷を人格化してきた昔話らしい表現です。
このように、「くわばらくわばら」は地名としての桑原、菅原道真の伝承、井戸に落ちた雷の民話、桑の木にまつわる説などが重なり合ってきた言葉と考えられます。
くわばらくわばら以外の雷よけの言い伝えや風習
雷よけの言い伝えは、「くわばらくわばら」だけではありません。
地域や家庭によって伝わり方は異なりますが、各地には雷を避けたいという思いから生まれたさまざまな風習がありますので、ご紹介いたします。
・蚊帳の中に入る
雷が鳴ったときに蚊帳の中へ入る、という言い伝えがあります。家の中でじっとして外へ出ない、身を低くする、といった行動と結びついていたと考えられます。また、蚊帳を立てる際の支柱が雷を逃がす役割を持つと考えられていた、という説もあります。ただし、これは昔の見方として紹介し、現代の雷対策とは分けて考える必要があります。
・鎌や刃物を立てかける
鎌や刃物を立てかけて雷を避ける、という言い伝えもあります。刃物で雷を切る、追い払うという発想があり、雷を人格化して受け止めていた昔話らしい表現といえるでしょう。桑の木や鎌にまつわる伝承と結びつく地域もあります。
・笛や鈴を鳴らす
笛や鈴など、音を使って雷を遠ざけようとするおまじないも伝えられています。音には、よくないものを払う、神仏に知らせる、場を清めるといった意味が重ねられることがあります。雷の大きな音に対して、人の側も音で応じようとしたのかもしれません。
・塩をまく、線香を焚く
塩をまく、線香を焚くといった行為は、清めや祈りの意味を持つものとして伝わることがあります。雷を自然現象としてだけでなく、神様や霊的なものと結びつけて受け止めていた時代には、こうした神事的な対処法も暮らしの中に取り入れられていました。
・神社や寺院での落雷よけの祈願
個人のおまじないだけでなく、神社や寺院で雷よけを祈る文化もあります。
たとえば、京都の北野天満宮では火之御子(ひのみこしゃ)神社の例祭として毎年6月1日に「雷除大祭(かみなりよけたいさい)」が行われています。
また、群馬県板倉町の雷電(らいでん)神社では、毎年5月1~5日に火雷大神(ほのいかづちのおおかみ)・大雷大神(おおいかづちのおおかみ)・別雷大神(わけいかづちのおおかみ)といった雷の神さまに豊作や雷除け・厄除けなどを願う「雷電大祭(らいでんたいさい)」が知られています。雷を恐れるだけでなく、地域ぐるみで祈り、季節の行事として受け継いできたことがうかがえます。
こうした言い伝えや風習は、現代の雷対策とは分けて考える必要があります。
しかし一方で、昔の人々が雷を恐れ、祈り、家族や地域を守ろうとしてきた気持ちを感じ取ることができるのではないでしょうか。
雷が鳴ったらどうする?現代の雷対策

雷が近づいていると感じたら、身を置く場所や周囲の状況を見て早めに行動することが大切になります。屋外で避けたい場所や、屋内で気をつけたいことを具体的に確認していきましょう。
金属よりも「高い場所」を避けることが大切
雷が鳴ったら、身につけている金属を外した方がよいと聞いたことがあるかもしれません。
けれど、金属を外すことだけに気を取られるのは避けたいところです。
雷は、金属だけを選んで落ちるわけではなく、周囲より高いものに落ちやすい性質があります。
そのため、金属のアクセサリーや傘の柄などを気にするよりも、まずは自分がいる場所を見直すことを優先する必要があるのです。
たとえば、次のような場所では注意が必要です。
・グラウンドや河川敷など、周囲が開けた場所
・山頂や尾根など、周囲より高い場所
・背の高い木の近く
・傘や釣り竿などを高く掲げた状態
金属を外すことよりも、屋内や車内などへ早めに移動することを優先しましょう。
木の下で雨宿りしない
雷が鳴ったとき、雨を避けるために木の下へ入りたくなることがありますが、木の下での雨宿りは避けたい行動です。
雷は高いものに落ちやすいため、木に落雷することがあり、さらには木に落ちた雷の電流が近くにいる人へ移ることがあります。これを側撃雷(そくげきらい)といいます。
雨が強くなると、つい近くの木陰へ入りたくなりますが、雷が鳴っているときは、木の幹や枝、葉から距離を取ることが大切です。
屋外で雷が近づいてきたと感じたら、木の下ではなく、鉄筋コンクリートの建物や車内など、避難に適した場所へ移動しましょう。
建物や車の中へ移動する
雷が鳴ったときにまず考えたいのは、避難に適した場所へ移動することです。
気象庁では、雷のときに移動する場所として、鉄筋コンクリートの建物、自動車、バス、列車の内部などを挙げています。
車の中にいる場合は、車体が電気を外側へ流す働きをするためとされるため、オープンカーのように屋根がない車は当てはまりません。
また屋外にいるときは、雷鳴が聞こえてから動くのではなく、黒い雲が近づく、急に冷たい風が吹く、空が暗くなるといった変化にも目を向け早めに屋内へ移る行動を起こしましょう。
屋内でも壁や電気器具から離れる
ただ建物の中に入ればよいというわけでもありません。
雷は、電源線、通信線、テレビアンテナなどを通して、屋内の機器へ影響を及ぼすことがあります。いわゆる雷サージと呼ばれる現象です。
そのため、雷が近づいているときは、家電機器や壁、天井などから少し距離を取るようにします。気象庁では、とくに木造住宅の場合、電気器具や天井、壁から1メートル以上離れることが案内されています。
屋内で意識したいことをまとめると、次のようになります。
・テレビやパソコンなどの家電機器に近づきすぎない
・電源コードや通信線のそばに長くいない
・壁や天井から距離を取る
・水道の蛇口や配管まわりにも近づきすぎない
・雷が遠ざかるまで、落ち着いて屋内で過ごす
昔の言い伝えは屋外での行動を思い浮かべやすいですが、現代の暮らしでは、電気機器との距離も考えておきたいポイントです。
腹ばいではなく姿勢を低くする
屋外にいて、すぐ近くに建物や車などがない場合は、姿勢を低くすることが大切です。
ただし、地面に接する面が広くなると地面を伝わる電流の影響を受けやすくなるため、腹ばいになるのは避けるようにします。
近くに移動できる場所がないときは、次のような姿勢を意識します。
・できるだけ姿勢を低くする
・持ち物を体より高く突き出さない
・傘や釣り竿など、長いものを高く掲げない
・地面に腹ばいにならない
・雷の活動が落ち着くまで、むやみに動き回らない
ここで、おへそを隠す言い伝えと現代の行動がつながります。
おへそを隠すと、自然と前かがみになるため、昔の言葉をそのまま雷対策にすることはできませんが、「身を低くする」「空の変化に気づく」「早めに移動する」という行動へ置き換えることはできます。
昔話やおまじないの中にある感覚を、現代の行動として読み直すことができる、長年語り継がれてきた生活の知恵としての一面を感じられるのではないでしょうか。
まとめ

雷が鳴ると「おへそを隠す」「くわばらくわばらと唱える」・・・どちらも、少し懐かしく、どこか不思議な言い伝えですよね。
その背景をたどると、雷を畏れ、空の変化に気づき、子どもや暮らしを守ろうとしてきた昔の人々の思いが見えてきます。
この記事では、次のような内容を見てきました。
・おへそを隠す話には、お腹を冷やさないことや、身を低くする動作につながる見方がある
・雷さまにおへそを取られるという話には、雷を神様や不思議な存在として受け止めた昔の自然観が表れている
・くわばらくわばらは、雷よけや災難よけの言葉として伝わり現在も慣用句とされる
・桑原や雷井戸の民話は、地名や寺院の伝承と結びつきながら語り継がれてきた
・金属を外すことよりも、高い場所や木の下を避けることが現代の雷対策では大切になる
・屋外では建物や車の中へ移動し、移動できないときは腹ばいではなく姿勢を低くする
・屋内でも、壁や電気器具から距離を取るなど、雷が近づいたときに意識したい行動を覚えておこう
現代では、言い伝えをそのまま行動にするというよりも、気象庁などの情報をもとにした雷対策や行動のひとつとして、昔の知恵を読み直す方が自然です。
昔話・神鳴りの世界から、雷よけの言葉や風習へ。そして、雷が近づいたときの現代の行動へ。
雷の言い伝えをたどることは、昔の人々が自然とどう向き合ってきたのかを知る手がかりにもなります。
空が暗くなり、遠くで雷の音が聞こえたときは、昔の言葉を思い出しながら、今の暮らしに合った雷対策の知識を学び、行動へとつなげていきたいですね。
